44.平塚柔道物語・その44
オリンピックが現実の目標となった 東海大渡邊美樹選手
全日本柔道体重別選手権大会の女子52kg級は、いよいよ準決勝になった。浜岳中出身の東海大1年、
渡邊美樹選手の相手は、山梨学院1年生で、世界ジュニアと学生のチャンピオンの加賀屋千保選手であった。
美樹は1年前から、同年齢でありながら見事な柔道をやる彼女の強さに魅了され、彼女を目標にし、
対戦したら勝つ自分になりたいと願っていた。だが、いつもその前の試合で負けてしまい、
チャンスを逃がしていたのである。
しかし、ここにその夢が実現した。「始め!」という審判の声。組んだ瞬間、「これは強い」と思った。
加賀屋は左内股、左背負い投げと、始めから積極的に攻めて来た。美樹は目標にしてきた相手との対戦が実現したことを思うと、
それまでの思いが爆発し、テンションは上がっていった。
途中までは互角であったものの、後半から美樹は徹底して攻めに回り、ラスト1分前というところで、
左大腰で1本取ったのである。「やったぞ。目標を達成した」という思い、すなわち、自分自身に勝ったことが、
美樹はうれしかった。
そして決勝となった。相手は了徳寺学園職員の西田優香選手であった。彼女は、2007年世界選手権大会で第3位。
世界の大会であるグランドスラム・リオデジャネイロで優勝の実績を持ち、オリンピックの金メダル保有者の中村美里選手
と好試合をする実力者であった。
試合は始まった。さすがに相手は強い。西田は左内股、左背負い投げと攻めてくる。美樹も左払い腰、内股、大腰で攻める。
美樹は準決勝の相手に闘志をすべて使ってしまったのだろうか。準決勝よりやや精彩がないように見えた。
それでも、両者決め手なし。ゴールデンスコアに突入。そこで、一挙に勝負に出ようと美樹は左襟を掴んだ瞬間、
西田の一本背負いにかかってしまった。技有りで西田の優勝が決まる。美樹は準優勝となった。
この戦いを、1回戦から決勝までずっと2階の観覧席から見守っていたのが、浜岳中学校柔道部顧問の真田州二郎教師であった。
真田は思った。「美樹、これでやっと、スタートラインに立てたな。お前がずっと夢を見てきたオリンビックも現実の
目標になったのだから」と。
彼女は中学時代からオリンピックを目指して頑張ってきたことを教師の真田は知っていた。
だが、当時はまだ夢のまた夢であった。
しかし今回、全日本で第2位になるということは、全日本のチャンピオンになることも可能である。
優勝者との最初の5分間はほぼ互角の戦いをしている。負けたとはいえ、まだ大学1年という若さである。
この1、2年は目を離せない重要な年になるのではないか。
真田はふと、どんな厳しい練習にも耐え、常に前向きな彼女の中学時代を思い出していた。
−以下次号−
写真は、準決勝大腰で1本の瞬間
渡邊美樹[東海大1年] 1990年5月23日生(19歳)
福島県出身 出身校:横須賀学院高 身長155cm
(HIRATUKA 市民ジャーナル 連載記事より抜粋)
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