38.平塚柔道物語・その38
空手家西田氏が生涯をかけて追求する「護身と養生」
極真空手清武会の師範室を訪ねると、壁一面の大きな書棚には、武道・空手の本はもちろんのこと、
文化・歴史・人物論など、ありとあらゆる本がぎっしりと並んでいる。西田氏は武道学者でもある。
「一生涯かけて本物の武道を追い求める。そんな指導者であり続けたい」と、前に語っていたが、
それを見事実践しているのだ。その真摯な姿勢、道を求める姿勢は、まさに現代の宮本武蔵である。
彼は、武蔵の五輪書の言葉を引用して語る。「武道とは、人と人とが生死を賭して戦い、
そして勝つための手段(技)である。勝つとは『生き残る』ことであり、負けるとは即『死』を意味することである。
ゆえに、武道としての空手は、生きるという意味において生涯武道であらねばならない。
言い換えれば、肉体の衰えを補う技術、及び新たなる力の発揚するものでなければ兵法としての意味を成さない」という。
また「若い期間体力の有り余る時に、試合という身近な目標があった方が良いが、試合はひとつの通過点であり、
最終目標ではない。ルールに縛られた試合では、繰り出せる技は限定されてしまう。後に廻ることも、投げることも、
つかむことも、本来の空手には存在する。空手の技法は千変万化であり、幅も広く奥が深い。
数種の技法を学ぶだけのものではない」と言っている。
「清武会では、選手としてのピークを過ぎた、40代・50代・60代になっても研鑽できる空手を目指し、
そのための方法論に従った稽古を続けることが生涯空手なのだ」と語る。
かつて、ニューヨークで「熊殺しのウイリー」達と出会ったあと、極真空手に不足していると思われるものを補うために、
中国武術を深く学んでいった。
剛柔流の流祖宮城長順(1888〜1953)の言葉から、空手とは「護身と養生」という本来の目的を知ったのである。
健康も強さの内である。要するに病気、病魔から身を守ることを護身と言い、病気になってもすぐ回復し、
病気になりにくい体をつくっていくのが、身を護ることの基本である。
清武会では、三戦(さんちん)という型を繰り返し練習することで、肉体的老化を防ぎ、力強い体をつくることができる。
特にこの型に取り入れられている腹式呼吸法は、自律神経を活発化すると同時に、血流を正常化し、瞬時に、
誰もが力を発揮し易い体になるという。
「ストレス解消にもなるので、この方法を多くの人に活用してほしい」と西田氏は語る。このように、清武会では、
「護身と養生」が一番の特色になっている。
「けんか空手」としての大山総裁の数少ない直弟子として頭角を現し、総裁亡き後、5年間も極真会館の代表を務めた。
49歳の時、現在の清部会を立ち上げ、中国武術の先哲の秘伝を学び極めながら、
古くて新しい空手を次の世代の人たちに継承しようとしている。
その西田幸夫氏は、まだ59歳である。
「空手は生涯をかけて完成させるもの」という氏と清武会の、今後の展開我が楽しみである。
写真は、師範室で 西田幸夫氏と筆者(左)
(HIRATUKA 市民ジャーナル 連載記事より抜粋)
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