25.平塚柔道物語・その25
真田州二郎の指導力−相手の心を見抜く
現在、国学院大学の選手である坂崎光太は中学時代を振り返って語る。
彼は関東大会の個人戦第1回戦では、プレッシャーで心も体もコチコチに固くなってしまっていた。
そのため力を発揮できず、運よく判定勝ちしたものの自分本来の柔道ができなかったのだ。
その時、柔道部顧問の真田はすぐに坂崎を呼び出し、彼の頬をたたいた。
それはコチコチになった彼の心に渇(かつ)を入れる、やむを得ぬ真田の「愛の鞭」であった。
坂崎はそのことで目が覚め、本来の力がよみがえった。2回戦では埼玉の代表を小外刈りに、
3回戦は栃木の代表を大内返しで1本勝ちし、目の覚めるような勝利を収めたのだ。
準決勝では全国1位の選手と対戦し敗れたものの、すばらしい試合であった。
坂崎のこうした活躍も、「機を見るに敏」の真田の対応がなかったならば、あり得なかったといえよう。
元大野中学柔道女子3羽鳥の一人である仁藤愛(現在日体大の選手)は、中学1年の時柔道部の中で一番弱かったという。
投げられることばかりで、誰も投げることができなかった。そんな不安な心を見抜いたのか。
真田は、仁藤の練習の時は何回も何回も投げられ役をつとめた。仁藤はそんな真田の心づかいがうれしくて、
気が付くと柔道にのめりこんでいたという。
それから1年後の県大会で、3羽烏の2人は早々と自分の階級で優勝し、残すは仁藤の試合のみとなった。
先に優勝した2人は「必ず勝て!」と声援を飛ばす。仁籐は、仲間と同じように優勝しなければというプレッシャーと、
決勝の強豪を相手に果たして勝てるかという不安の中、見事に優勝した。
その時、真田は仁藤のそばに駆け寄り「仲間の優勝というプレッシャーの中で良く闘ったなぁ」と激励した。
仁藤は、「自分の苦しい心のすべてを見抜いてくれたんだ」と、思わず泣いてしまったという。
それが真田への強い信頼感につながっていった。
「相手の心を見抜く」ということは、人を育てる指導者の第一条件といえよう。
さらに、見抜いた上でどう対応するのか。その手の打ち方が相手にとって的確でなければならない。
浜岳中学校の教師、柔道部顧問の真田州二郎は、これらのことを最も大切に考え、実践して来たといえよう。
現在、平塚柔道協会小中学生の指導も担当している真田は、試合が終わった時に、負けてくやしい生徒に手をあげさせる。
本当にくやしいのかを確認し、くやしい心が成長する原動力になることを力説する。
さらに、負けそうになった時、柔道が強くならない時、彼は言う。
「花が咲かない時は根を伸ばせ、誰でも伸び悩む時期がある。逆に順調に伸びすぎても、その反動がいつか必ず訪れる。
原因を追及し、くじけず、めげず、切れずに、地面の中の見えない根っこを伸ばして下さい。いつか必ず花が咲きます」と・・。
写真は、185cmの金井3段を相手に中学生に指導する真田州二郎(右)
(HIRATUKA 市民ジャーナル 連載記事より抜粋)
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